2020年4月ブログ良記事4選

いい加減何か書かなければブログがインターネットの流木になってしまう。その折に、ちょうど自粛生活で、購読しているブログたちの更新頻度が高めになっている。そこで先月に更新された記事の中から好きなものを紹介していこうと思う。

 

①「段ボールを解体するのが遅いと人権がない世界へ」

ninaxzy.hatenablog.com

 

タイトルと最初の一文ですでに良い記事なのが分かると思う。

内容はタイトル通り、大学生が段ボールの解体などのバイトをする話。

まず、文章のテンポが素晴らしいのでさくさく読める。その中で一つ一つの人物や光景や事象が明瞭に表現されていて、日の当たらない労働現場の息づかいややるせなさがすっと入ってくる。そして何より特筆すべきポイントは、筆者が結局は大学生という別世界の人間に過ぎず、だからこそ二つの世界のコントラストや相剋が文章に鮮やかに表れている点。

このブログは素っ気ない表題に反して、すべての記事で「やってみ」ている内容がハードで筆致がひねくれていて個人的におすすめ度が高い。

 

 

②「利他的って」

mbcms21.hatenablog.com

 

個人的な共感と問題関心へのヒットで選出。

筆者は就活をしている学生。ここで書かれている、一見利他的な行動だが、実際には自己評価ができていないために他者の評価を求める利己的なものであるという構造が非常に共感できた。私も一応院生のくせに相当なコストをボランティアの活動に投じていて、傍からは利他的な者とみなされているらしい(「聖人君子」と皮肉を言われたことさえある)が、結局自分にとって必要な行動だからそこまでしているのである。人がメリットと感じるものは金銭や物資のように分かりやすいものばかりでなく、居場所や承認、それこそ思想の実現のようなことまで含まれる。そうするとあらゆる行動は利己的なものとして捉えられるかもしれない。

一方で、記事中でも触れられているように、就職活動等において「一見した利他性」が求められることもまた事実。利己性一元説で片づけてしまうと、ここで求められているのはいったい何なんだという話になってくる。

 

③「好きな絵文字を紹介する」

kageboushi99m2.hatenablog.com

 

前半は筆者と絵文字との付き合いについて普通に理解できる文章が続いていくが、中盤の「自分の絵文字がある」という概念が出てきたあたりから少しずつ不思議な領域に足を踏み入れていく(私がネット文化に疎いだけだったらごめんなさい)。人に対して絵文字を当てはめるという行為から、絵文字単体では持ちえないシナジーが発生し、さらに筆者の妙に冷静な観察眼や卑屈さもあいまって「しおれた花のイメージにぴったりと合っている友人」とか「重大な自己欺瞞」とか謎のコメントが飛び出して面白くなってくる。

この記事を選んだ決め手は最後のオチなのだが、ネタバレすると興を削ぐので自分で読んでいただきたい。

 

④「むなしいチーズケーキの作り方」

not-miso-inside.netlify.app

 

定期試験の問題しかりランキングものの発表しかり、えてして威力の大きいものほど最後に置かれるものだ。つまり、この紹介記事におけるラスボスがこれである。

記事はおおむね前半部「ベイクドチーズケーキの作り方」と、後半部「むなしさの鑑賞」からなる。前半部では、ところどころおかしな材料や工程が挟まれるものの、基本的にはチーズケーキの作り方が紹介されており、最後を除いてそこまで違和感を感じる部分はない。

本題は後半部にある。ここでは卓越した修辞と論理的懐疑および脳神経学的理論が総動員され、チーズケーキという事象、あえていえばきわめて些末な事象に対する考察が行われる。我々は考察に用いられたそれらの理論について真偽を容易に判断することができない。また、チーズケーキに対する考察の結果、論はきわめて一般的抽象的かつ重大なテーゼに到達するが、土台となるチーズケーキ考察が虚実明らかでない以上、そのテーゼも畏れるべき真理であるかはたまた壮大な冗談であるかは不明となる。こうしれ我々は混沌の中に取り残される。

 

このブログには通常遭遇し得ない種類の文章がたくさんあるので強く勧めます。ただし、露悪的な記事も多いので人を選びます。